経験者が本音で比較! 訪問看護師として働く鈴木さんの体験談
転職者の声
前回のコラムでは病棟看護と訪問看護の特徴を比較し、それぞれ向いている方の傾向をまとめお届けいたしました。今回も鈴木さん(仮名)が両方の勤務を経験し、実際に感じたことや訪問看護師としてのキャリアを選んで感じたことをお届致します!
1.病棟と訪問看護、それぞれの「やりがい」と「しんどさ」
2.訪問看護を選んだ理由と今感じていること
3.「自分に合う職場」を見つける為に考えてほしいこと
1.病棟と訪問看護、それぞれの「やりがい」と「しんどさ」
①病棟のやりがい命の回復に立ち会える感動病棟は、まさに「命の現場」です。検査・手術・急変対応など、医療の最前線である病棟では、毎日が緊張感の連続。しかし、その分、「自分の関わりが、患者さんの回復につながった」と実感できたときのやりがいは、本当に大きなものでした。
私の心に強く残っているのは、呼吸不全で緊急入院した方を担当したときのことです。入院時は人工呼吸器をつけ、言葉も発せず、不安げな表情をしていました。それでも、治療と看護を重ねるうちに少しずつ容体が改善し、やがて人工呼吸器も外れ、自分の力で呼吸できるようになりました。そして退院の日、歩いて病室を出ていく患者さんの姿を目にしたときは、入院してきた頃がまるで嘘のようで、深く感動を覚えました。
治療の効果が見える形であらわれ、患者さんが元気になって退院していく。そのプロセスに関われるのは、病棟看護の大きな魅力だと感じています。病棟は、いつも周りに仲間がいて、看護師同士や多職種がその場で協力し合いながら患者さんを支える場所です。一丸となって急変対応にあたり、忙しい中でも声をかけ合い、協力し合えたときには、「ここで働いていてよかった」と心から思えることが何度もありました。
同じ目標に向かって動く仲間がいるという安心感や一体感は、病棟看護の魅力です。
②病棟看護のしんどさ 忙しさに追われて・・・理想の看護が遠のいた日々
病棟看護のやりがいは大きい一方で、しんどさを感じる場面も多くありました。そのひとつが、常に「時間に追われる」環境です。ナースコールが鳴り止まず、バイタル測定や点滴準備、処置、記録などに追われる中で、自分のトイレや水分補給のタイミングすらつかめない日もありました。
患者さんの訴えに耳を傾けたい気持ちはあるのに、次の業務が頭をよぎってしまい、どうしても立ち止まれない。業務に追われ、「ちょっと待ってください」と患者さんを待たせてばかりでした。気づけば、忙しそうな雰囲気を出してしまい、いつの間にか、患者さんにとって「話しかけづらい存在」になっていたのかもしれません。
看護学校で学んだ「理想の看護」とは程遠い――そんなふうに感じる日々でした。
さらに、病棟という「閉ざされた空間」で、長時間、同じメンバーと過ごすことで、人間関係に悩むこともありました。長年勤務している一部のスタッフの中には、特定の人を無視したり、陰口を言ったりと、チームの雰囲気を悪くするような方もいました。体力的にもしんどい上に、精神的なストレスは非常に大きかったです。
③訪問看護のやりがい 「この看護がしたかった」 心が満たされた瞬間
一人ひとりの利用者さんと丁寧に関われることは、訪問看護の魅力です。1件あたりの訪問時間が決まっているため、その時間は目の前の利用者さんにしっかり集中できます。生活の場であるご自宅で、その方の思いや背景に寄り添いながらケアを行えることに、大きなやりがいを感じています。
また、訪問看護では「治すこと」だけが目的ではありません。本人やご家族の意向を尊重し、納得のいく選択を一緒に考えていくことができます。
私が印象に残っているのは、終末期に誤嚥性肺炎を繰り返していた方を担当したときのことです。本人は「食べたい」と望まれ、ご家族もまた「食べさせてあげたい」と思っておられました。医師から誤嚥のリスクを説明した後も、本人・ご家族ともにその気持ちは変わりませんでした。医師の許可の下、私はその気持ちを尊重し、体位や食形態に配慮しながら、できる限り安全に食べられるよう支援しました。そのかいあって、本人も満足され、ご家族も本人の思いを叶えられたことで、安堵した表情を浮かべておられました。
病院では、終末期であっても「治療優先」となり、誤嚥を防ぐために医師から絶飲食の指示が出され、その指示を厳守することが看護師の役割になります。しかし、その対応が本当に患者さんの幸せにつながっているのか――現場で疑問を感じることもありました。
在宅では、医療的な管理よりも、本人やご家族の意向が、何よりも大切にされる場所です。私の看護が利用者さんの幸せにつながっていると実感できた瞬間でした。
④訪問看護のしんどさ 一人きりの現場、雨の日も走る日々
訪問看護には、病棟とは異なる大変さもあります。
訪問看護では、訪問先に行かないことには仕事が始まりません。移動も仕事の一部です。
たとえ台風の日でも、医療的な処置が必要な方の訪問は休めません。雨の日や真夏の移動は体力的に大きな負担となり、自転車やバイクでの移動では特に大変です。私も自転車で移動していましたが、夏場は熱中症になりかけたこともあり、雨の日は道が滑りやすく転倒の危険も感じました。
また、訪問看護は基本的に一人で訪問します。電話で他の看護師や管理者に相談することはできても、実際にその場の利用者さんを見て判断し、対応するのは自分だけです。
訪問の頻度は利用者さんによって異なり、次の訪問が1週間先になることもあります。その間に状態が悪化する可能性もあるため、その時の自分の判断が非常に重要で責任も重いです。
病棟であれば24時間365日の看護体制が整っており、他の看護師の目もありますが、訪問看護ではその責任を一人で背負う重みを感じる場面が多くありました。その場で相談できず、一人で判断し対応しなければならないことに、強いプレッシャーを感じることもあります。実際、そのプレッシャーから、訪問看護を辞める方もいました。
訪問看護でも急変は起こりえます。その時、一人で冷静に対応できるかどうか、訪問看護に転職した当初は非常に不安に感じていました。

2.私が訪問看護を選んだ理由と今感じていること
子どもとの時間を取り戻し、「本当の看護」に出会えた場所①「お母さん」と「看護師」、どちらも諦めたくなかった
私が訪問看護へ転職した一番の理由は、「子どもの勉強をもっと見てあげたい」という思いからでした。病棟では土日祝の休みが月に2〜3日ほどしかなく、残業も多かったため、子どもとゆっくり向き合う時間が少なく、子供の勉強を丁寧に見ることができませんでした。特に下の子の成績が芳しくなく、「このままではいけない」と感じたことが、働き方を見直す大きなきっかけになりました。
②家庭を大切にしながら働ける「リアルな選択肢」
訪問看護では、土日祝の訪問を減らしているステーションも多く、休みの希望も通りやすい環境でした。実際に転職してからは、子どもと過ごす時間がしっかりとれ、家庭とのバランスを整えやすくなりました。
③「一人じゃ不安」から「一人でもできる」へと変わった瞬間
訪問看護は基本的に一人で訪問します。最初は「自分一人で判断して対応する」ことに大きな不安がありました。不安を解消するために、自己学習を重ねたり、救命講習を定期的に受けたりと自ら学びました。さらに、現場での経験を積むことで実践的な対応力も磨かれ、一人で判断し、対応できるようになりました。不安というマイナスを抱えながらも、それがやがてプラスの自信と成長へと変化していきました。
④ずっとやりたかった看護が、ここにはある
実際に働き始めてみて、改めて気づいたことがあります。それは、看護学校で学んだ理想の看護を、実際に形にできる環境が訪問看護にはあるということです。病棟では業務に追われ、患者さんを待たせてしまうことも多く、理想の看護を実践するには困難な環境でした。しかし訪問看護では、1件あたりの時間が明確に決まっており、落ち着いて一人ひとりと丁寧に向き合うことができます。
患者さんやご家族の思いに寄り添い、その人らしい生活を支えることができる――
本当の看護をしている。そう感じられる瞬間が、訪問看護にはたくさんあります。
⑤母親としての自分も、看護師としての自分も、どちらも大切にできる
訪問看護を選んだのは、「子どもとの時間を守るため」でしたが、今では看護師としても、やりがいや成長を実感できるこの職場が、自分にとってベストな選択だったと感じています。家庭との両立がしやすく、無理なく長く働き続けられるので、私には最適な職場です。
訪問や移動は基本的に一人なので、人間関係のストレスも減り、病棟時代と比べて精神的な負担も大きく減りました。移動は、天候などで大変なこともありますが、体を動かすことでリフレッシュにもなりました。さらに、ダイエット効果も感じられるようになりました。
訪問看護では委員会や看護研究などがなく、病棟に比べて業務外の負担も少ないことも気に入っています。

3 「自分に合う職場」を見つけるために考えてほしいこと
「自分に合う職場」を考えることは、単なる仕事選びではありません。看護師としての時間と、自分らしく生きる時間。そのバランスを、今一度考えてみませんか。看護師の仕事には、病棟もあれば訪問看護もあり、働き方は本当にさまざまです。
大切なのは、仕事としてのやりがいだけでなく、自分がどんな人生を送りたいかという人生観を見つめ直すことだと思います。幸い、看護師という資格があれば、働く場所や働き方を選び直すことができます。
私自身もこれまでに、病院、在宅の訪問看護、施設の訪問看護に加え、単発バイトで訪問入浴やデイサービスも経験してきました。それぞれの職場には異なる特性があり、自分に合うかどうかも含めて、多くの学びを得ることができました。
私は、訪問看護で仕事とプライベートどちらも大切にできる職場に出会い、今充実した毎日を送っています。思い切って病棟から訪問看護に転職して、本当に良かったと感じています。
看護師としての時間も、自分らしく過ごす時間も、どちらも大切にできる職場はきっと見つかります。あなたのこれからの人生が、ますます輝くものになりますように心から願っています。